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名古屋高等裁判所 昭和35年(ネ)426号 判決

控訴人 原告 伊藤嘉章こと伊藤一則

被控訴人 被告 浅井輝雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四十六万千四百五円及之に対する訴状送達の翌日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」(控訴状には「被控訴人の請求は之を棄却する」とあるも弁論の全趣旨に徴し右趣旨に解する。)との判決を求めた。二、当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用書証の認否は左記に訂正又は補充する外原判決事実摘示の通りであるからここに之を引用する。即ち、控訴人は

(1)原判決添附目録中四の振出日「昭和三一年三月一一日」とあるを「昭和三一年一月一一日」、五の振出日「昭和三一年三月一七日」とあるを「昭和三一年一月一七日」、六の振出日「昭和三一年三月二三日」とあるを「昭和三一年一月二三日」、七の振出日「昭和三一年三月一九日」とあるを「昭和三一年一月一九日」と各訂正する。

(2)控訴人が甲第一乃至七号証の手形を受取つた当時控訴人は被控訴人に対し原判決記載の如き商品を売渡したものである。

(3)右売掛代金債権も手形債権もいずれも時効により消滅したから利得償還請求をなすものであると述べ

(4)立証として証人古屋道政の尋問を求め原審における被控訴本人の供述の一部を利益に援用した。

理由

原審における控訴本人の供述同供述により成立を是認すべき甲第一乃至七号証(但し、被控訴人名下の印影のみは当事者間に争がない。)当審証人古屋道政の証言並弁論の全趣旨によれば控訴人は昭和三十一年一月頃被控訴人及永田茂登治の両名に対しゴコーススノール手袋等を売渡しその代金四十六万千四百五円の支払方法として控訴人主張の如き被控訴人及永田茂登治両名共同振出の約束手形七通を受取つたこと、右手形債権はいずれも満期後三年の期間経過により時効により消滅したことを認めることができる。

被控訴人は右取引は永田茂登治との間になされた取引であつて被控訴人はその代理人として商品を受取つたことあるに過ぎず、右手形の被控訴人振出名義は永田の偽造したものであると主張し原審における被控訴本人の供述によれば右事実を認め得るようであるが右供述は前記各証拠と対比して措信しがたく他に右事実を認めるに足る証拠がないから被控訴人の右主張はその理由がない。

然しながら、本件手形は前記認定の如くゴコースノール等の売買代金支払のために振出されたものである以上手形の時効が完成したとしても控訴人は原因関係たる右売買代金債権を行使し得るわけであるから利得償還請求権を認める必要なく、又若し右売買代金債権も亦消滅したとしてもその消滅の時期が手形債権の時効消滅の前後に拘らず代金債権の消滅は手形債権の時効消滅と別個の原因に基いて消滅したのであるから被控訴人の利得と手形債権の時効消滅との間には因果関係が存しないものというべきである。従つて、右いずれの場合にも利得償還請求権は発生しないものというべきである。

されば、控訴人の本訴は失当として棄却すべきものである。

以上の理由により結局右と同趣旨に帰着する原判決は正当であるから本件控訴を棄却し、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁利官 奥村義雄)

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